電話の得意な人、メールの得意な人

先週、NEWS ポストセブン では「電話 vs メール」がテーマの一つだったようで、この話題に関する記事が毎日のように投稿されていました。

電話に関しては、迷惑ツールになり得る(相手の作業を強制的に中断させてしまう等)と言う問題点がよく指摘されます。私自身も本心としては「電話って機能、早く滅亡しないかなぁ」と言うものなのですが、今回はそれとは別のお話。

上記の記事を見ると、基本的に「メールを好む若者と電話を好む中高年」と言う対立構造で書かれています*1。確かに、実感としても若者に関してはメールを好む人の方が多いようには思うのですが、年齢を問わず「メールは嫌だ。電話の方が良い」と言う声は自分の周りでも(特にオフラインでは)それなりに聞こえてきます。

参考までに、「電話の方が良い」と言っている人と出会った際には理由を尋ねているのですが、戻ってくる答えとしては「メールは、この文章おかしくないかな?とか細かな点でも気になってしまって、一通書くだけでも気力と時間の消耗が大きすぎる。その点、電話だと言い方がちょっとおかしくても流れで(向こうも流してくれて)何とかなる」と言うものが多いようです。

「話す能力」と「書く能力」の両立は難しい

先日、白紙に近い答案はバカなのか - 小人さんの妄想 と言う記事が話題になっていましたが「自分の思っている事を文章にする」と言う行為には思っている以上に能力を必要とします。「書く能力」に関しては、現在の小中高のカリキュラムの関係で「単に修練が足りてないだけ」と言う人も多いようには思うのですが、たとえ修練を積んだとしても苦手で大きな労力を要すると言う人は存在します。逆に「自分の思っている事を話す」事にもやはり何かしらの能力を必要とします。

書面か口頭か

仕事の仕方について初めに知っておくべきことが、自分は読む人間か、聞く人間かである。世の中には読み手と聞き手がいるということ、しかも、両方できる人はほとんどいないということを知らない人が多い。自分がそのいずれであるかを認識している人はさらに少ない。しかし、これを知らないことがいかに大きな害をもたらすかについては、いくつかの実例がある。

(中略)

自分が右ききか左ききかを自覚するようになったのは、先進国においてさえ、一世紀ほど前にすぎない。左ききは、まともに扱われなかった。しかも、右ききに転向できた者はほとんどいなかった。彼らの多くは、単に無能とされ、ときにはその心理的な負担のために、どもるようにさえなった。

左ききは、おそらく 10 人に 1 人にすぎない。これに対し、聞き手と読み手の割合は、ほとんど五分である。そして、左ききが右ききになることが難しいように、聞き手が読み手になることも難しい。同じことは、逆についてもいえる。

したがって、読み手として行動する聞き手は、ジョンソンと同じ道をたどる。逆に聞き手として行動する読み手は、アイゼンハワーと同じ運命をたどる。何事も行なえず、何事も達成できない。

明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命(p.201-203)

上記は「聞き手と読み手」と言う対比で語られていますが、これを裏返した「話し手と書き手」についても同様の事が言えるように思います。[B! 教育] 白紙に近い答案はバカなのか - 小人さんの妄想 で「政治家の聞取りを、ゴーストライターが纏める」と言うコメントがありましたが、「話す事を得意とする政治家が、書く事を得意とする人(ゴーストライター)に自分の話した事を書かせる」と言う構図も「話す事と書く事が両方得意な人も(ほとんど)いない」と言う事を示す一例だろうと考えられます。

Web 上で電話に対する擁護が少ない理由は(迷惑的な問題もあるでしょうが)Web の性質上「何かを書いたり読んだりする」事が多いので、自然と「書き手」や「読み手」が集まってくるためではないかなと言う気がします。私自身も、恐らく「書き手 / 読み手」と言う性質が強いのだろうと思います。一方で、Web とはあまり関わりの薄いような業界では「電話の方が良い」と言う声の割合が予想以上に大きいのかもしれません。

メールと言う連絡手段が普及して以降、普段の連絡方法はほとんど電話と言う時代に比べると「書き手 / 読み手」の人にとっても大きなハンデを背負わずにやっていける土壌が少しずつ形成されています。「書く / 読む」事を得意とする人が電話主体の企業(業界)に就職、あるいは「話す / 聞く」事を得意とする人がメール主体の企業(業界)に就職すると思わぬ所で躓いてしまい、自身の能力をうまく発揮できない事が考えられます。仕事を選ぶ際には、自分が「書く事 / 読む事」と「話す事 / 聞く事」のどちらが得意なのかを事前によく把握してから活動する事も重要なのだろうと改めて思いました。

*1:蛇足ですが、これは 雑誌の読者層的に、その対立構造が一番都合が良いのだろうな と言う気がしました