言葉の独り立ち

コミュニケーション力の定義としては、相手の言いたいこと・伝えたいことを引き出す質問ができる、ドキュメントを作成できる、自分のことを表現できるといった、聞く・書く・話すに関係する内容が上げられていた。

http://d.hatena.ne.jp/itoyosuke/20071101/1193932945

エントリの本題とはずれるのですが,コミュニケーション能力の中に“ドキュメントを作成できる力”が挙げられているのが興味深いです.個人的には,分かりやすい文書が書ける能力には“コミュニケーション能力”とは違う言葉が当てられている(それこそ“ドキュメント作成能力”)と思っていたのですが,上記の定義にしたがうと,分かりにくい文書を作成してしまった場合に“あいつコミュニケーション能力がないから”と言う評価を下されている可能性があるのだな,と感じました.

言葉の持つ意味は,時間が経つにつれて肥大化していきます.その言葉が発生した時点で持っていた意味に加えて,様々な場面で議論された結果付加された意味,さらには各々が考えるその言葉の本当の意味もどんどん付与されていきます.そのため,自分が想定していないような意味でその言葉が使われることもしばしば発生します.

考えることについて、人間は2つの能力を持っていると思う。

  • 物事を考える能力
  • 物事を考えずにすます能力

世の中には情報があふれ、世界はとても複雑だ。複雑性を縮減するために、「概念」や「意味」がある。情報を一般化・抽象化させ、物事を単純にできる能力は、「考えずにすます能力=思考を止める能力」でもある。だから、考えずにすますことは、一概に悪いとは言えない。


でも、暮らしている中で、自分で気がつかないまま「考えずにすましていること」は多い。ときには、今まで考えずにすませていたことを、深く掘り下げて考えてみることも必要である。

http://simple-u.jp/pd200401.html#2004-01-10

禁止語を設定するというレベルまで行かないにしても,上記のように最初に“○○○とは何か”と問うことは,(特に議題に挙がっている言葉が意味を問うまでもなく当たり前に使われている場合には),有効なことではないかな,と思います.上記の記事で言えば,コミュニケーション能力とは何かと問うことによって,ドキュメントを作成する能力も含まれている(少なくとも相手はそう思っている)ことを知ることができたので,その後はそれを前提に議論を進めることができます.

また,もし“○○○とは何か”と問うことはもう一つ意味があるように思います.例えば,コミュニケーション能力とは何か,と言う問いに対して相手がうまく回答することができなかった場合には,

あらゆる問題を解決することができ、誰にでも獲得可能であるとされる究極の能力。その詳細は謎に包まれている。(はてなキーワード:コミュニケーション能力(2006/11以前)より)

と言うように,その言葉を本当に魔法の言葉(マジックワード)として使っていることが分かります.そして,ある言葉を具体的なイメージを伴わずに(本当にマジックワードとして)使っているのかどうかを確かめることは,その後もその言葉について議論するべきかどうかを判断する材料となります.何も具体的なイメージを持たずにマジックワードとして論じている場合には,議論は不毛なものに終わりそうなのでそれ以上突っ込むべきではない,など.

言葉もある程度成長して“独り立ち”してしまうと扱いが難しくなります.その辺りも注意していかなければな,と感じました.