SBMの衆愚化と大衆化

SocialBookMark (SBM) 全般と言うよりはてなブックマークはてブ)に主眼を置いた感じですが。以前、SBMの衆愚化というテーマで(助言役として?)詳しく調査する機会がありました。そのときには、SBMが衆愚化する原因として以下の2つが挙げられました。

  1. ランキングに現れる記事ばかりをブックマークするユーザが増加するため
  2. システムが広く認知され一般的なユーザが増加するため

しかし、個人的にはこれらの2つの原因を衆愚化という一つの言葉では言い表すのは難しいと感じたため、以下に自分なりにこれらの原因(問題)について整理してみます。時間的な都合もあって、調査した場では自分が思ったことを全部は伝え切れなかったので補完的な意味合いも兼ねて。

SBMの衆愚化

まず、話を単純にするためにSBMの衆愚化を集合知 (Collective Intelligence) の条件を満たすことができなくなっている状況と定義します。集合知の条件とは以下の通りです。

Collective Intelligence」は、「集団知」とでも訳すのだろうか。本書の主張は、ひとことでいえば、「適切な状況の下では、人々の集団は、その中で最も優れた個人よりも優れた判断を下すことができる」ということである。適切な条件とは、

  1. 意見の多様性
  2. 各メンバーの独立性
  3. 分散化
  4. 意見集約のための優れたシステム

であり、これらが満たされれば、個々のメンバーが正解を知っていなくても、また合理的では必ずしもなかったとしても、グループのほうがよいという。

H-Yamaguchi.net: The Wisdom of Crowds: Why the Many Are Smarter Than the Few and How Collective Wisdom Shapes Business,Economies, Societies and Nations

この定義を基にするならば、前者に関しては確かに衆愚化が発生していると言えます。ホットエントリなどランキングの上位に並ぶ記事ばかりをブックマークした場合、ブックマークする際に自分の意思だけでなく他人からの推薦と言う要素も混じるため上記の4条件のうち各メンバーの独立性が失われていることになります[1]。実際、この問題(“ランキングの上位にいる”という事が新たなブックマークを呼び、それがノイズとなる)を指摘している記事は多く[2]、衆愚化対策についてもこれを何とかしようと考えているものが多かったように思います[3,4,5]。

SBMの大衆化

次に後者の原因(システムが広く認知され一般的なユーザが増加する)についてですが、これが衆愚化という括りで議論することができないように感じました。この問題は、それまでニッチな領域の人々のみで使われていたシステムが広く大衆に知れ渡ってしまったためにランキングに現れる記事も様々な分野のものが広く浅く現れるようになり、その結果として古参の人々からすると質が落ちたと感じてしまうと言うもので、これについても様々な記事で指摘されています[6,7]。

しかし、これが先に挙げた4条件のどれを満たしていないのかと問われると返答に悩みます。様々な分野のユーザが参加するようになるのであれば多様性としてはむしろ広がったはずなのに、古参のユーザからすれば確かに質が落ちたと感じてしまうと。そこで、ここでは後者の問題に関しては(大衆化という言葉を使っている記事が多いようなので)SBMの大衆化と呼び衆愚化とは区別する事にします。

ただ、後者の問題に関してもう少し詳細に議論していくと、様々な要因が絡んでいることが分かります。後者の問題の例として、一般ユーザが増えることによって(朝日、毎日、産経などの)新聞のニュースや(GIGAZINEなどの)有名なニュースサイトで紹介された記事ばかりブックマーク数が伸びてしまい、その結果ランキングに現れる記事がそれらのニュースサイトと似通ってしまっている、と言うものが挙げられました[8]。しかしこの例の場合、直接的な原因はブックマークに登録する際に自分の意思だけではなくそれらのニュースサイトからの推薦も混じり各メンバーの独立性が失われているためであると見ることができ、どちらかと言うと前者的な問題を孕んでいます。つまり、この例に関しては先に挙げたSBMの衆愚化の定義の枠内で議論することができ、また前者の問題への対策手法がそのまま適用できる可能性があると考えることもできます。

上記は一例ですが、一般ユーザが増えたためという指摘は原因として述べるには(少なくとも前者よりは)抽象度が高いため、この事について議論する際にはもっと原因を細分化する必要がある、と言うのが感想です。

多様性と集約システムの関連性

それでも、先に挙げたSBMの衆愚化の定義の枠内だけではやはり全てを議論することができないように感じます。例えば、全ての(一般的な)ユーザが自分の意思のみで記事をブックマークすると仮定したとしても、ユーザの多様性が広がればランキングに現れる記事も多種多様なものになり古参ユーザからすれば質が落ちたと感じてしまう、と言うことは十分にありえそうです。

ここで、上記の4条件のうち多様性だけは集約システムと密接に関連しているのでは?言う疑問を抱きました。他の2条件(独立性、分散性)に関しては、その条件が満たされている限りは集合知は正常に機能するけれども、多様性に関してだけは広ければ広いほど良いと言う訳ではなく集約システムによって上限が決まってしまうのではないのか?と言うものです。例えば、はてブのホットエントリを表示するページに、(登録されたタグや信頼しているユーザなどを基点として)特定の範囲(分野など)の記事だけを適切に切り出して表示するような機能があったとすれば、先に挙げた古参ユーザが感じる不満を緩和させることができそうです[9,10,11,12]。そう考えると、現在指摘されている問題点を(そのサービスの多様性の広さに応じてシステムをアップグレードするなどして)システム的に改善できる可能性もない訳ではないのかな、と感じました。

以上、今回は良く言われるSBMの衆愚化(とそれに類するもの)の原因の整理でした。対策方法についても実験結果とともにいくつか見てきたのですが、言及できる機会があればまたという事で締めておきます。

参考URL

  1. sta la sta:はてブのホットエントリは集合知とは無関係
  2. fladdict.net blog:ソーシャルブックマークの衆愚化について
  3. fladdict.net blog:ソーシャルブックマークの衆愚化 改善案1
  4. 煩悩是道場:はてなブックマークを衆愚と思わせない方法
  5. Life like a clown:ブックマーク初動率
  6. fladdict.net blog:はてぶがドンドン馬鹿になっていく
  7. CNET Japan:ソーシャルブックマークは群集の叡智の夢を見るか
  8. BLOG STATION:「はてブの衆愚化」について考える
  9. 妄想科學日報:集合愚から集合知を取り出す
  10. tht.blog:タグがネットを切り拓く〜ソーシャルブックマークの優位性
  11. 『斬(ざん)』:衆愚化の解決はトッピングの自由度にある!?
  12. suVeneのあれ:BON SAGOOL レビュー(衆愚化を救う!・・・かも?)