物欲消滅

2009年5月25日号の日経ビジネスが「物欲消滅」という刺激的なタイトルの特集記事を掲載した。確かに、不況のせいもあり、消費者の購買意欲は低下している。しかし、本当にモノを買いたいと思わなくなったのか。

日経ビジネス特集は「物欲消滅」 消費者は変わったのか : J-CASTニュース

以前、知人が私の家を訪れたときに「○○さんの家って本当に何もないね」と言った事を思い出しました。「車とかテレビとかはどうでも良いし、マンガや小説は読んではいるけれども、ないならないでどうと言うことはない。音楽もせいぜい作業用 BGM として既に持ってる音楽を聞くだけで十分。子供時代あれほど情熱的にやっていたテレビゲームさえも、やらなくても何の問題もなかった。」そんな感じで日々を生きているうちに、パソコンとネット接続環境さえあれば他の娯楽的なものは何も要らないと言う感じになっていきました(その代わりネット中毒気味ですが)。

消費活動が減退した直接的な原因は景気後退なのでしょうが、個人的には、景気が後退するにつれて「消費者が自らの消費活動に対して冷静に考えるようになった」のが(予想以上に消費活動が減退した)理由の一つと考えています。

世の中のモノ・サービスの多くは「あってもなくてもどうでも良い」か、せいぜい「あれば便利だけどなくても問題ない」程度のものであろうと思います。この類のものは、買うことに対して変に冷静に考えたりすると、なかなか買う決断ができなくなってしまいます。そのため、(消費拡大を促すと言う観点から見ると)消費者の思考を停止させる(買う事に疑問を持たせない)ことも必要となってきます。

1980年代後半から1990年代初頭のバブル景気の日本では恋愛で消費行動が重視される傾向があったとされ、「この時(イベント)にデートするならばここ(流行の店など)」「何度目のデートならどこにいく」というようなマニュアル的な恋愛が女性誌や男性向け情報誌、トレンディドラマなどで盛んにもてはやされた。

恋愛 - Wikipedia

景気が良いうちは、上記のように雑誌やテレビドラマ、CM などで煽ることによって、比較的容易に消費者の思考を停止させることに成功してきました。しかし、景気の後退とともに人々の懐に余裕がなくなってくるにつれて、消費活動を行うときに少しだけ「自分の消費」について考えるようになり、それが消費行動に大きなブレーキをかけているように感じます。

個人的には、Winny などの P2P ソフトも同様の効果を発揮したのではないかと考えています。多くの企業は、違法なコピー品が無断でダウンロードされるから(正規品が)売れなくなったと主張しています。もちろん、この指摘も正しいとは思うのですが、それよりも大きな(P2P ソフトの)功罪は「これまで何の疑問も持たずに CD やゲームを買い続けてきた層を冷静にさせてしまった」事にあるのでないかと思います。いったん冷静になってしまった消費者を以前のように半ば思考停止して消費する状態に戻すのはなかなか困難な事です。例え P2P ソフトやその他の違法コピー的行為が完全に駆逐されたとしても、昔のようなバブル的な状況に戻ることは、もう恐らくはないだろうなぁと言う印象です。

下流社会 のように現在の消費活動の減退に嘆いてる人も多いようですが、一個人としては「今の状況で良い」と言う立ち位置です。吾唯知足 と言う言葉もあるように、消費意欲が減退して現状に満足する事は、円滑に日々を生きていく上で、ある程度は必要な事ではないかなと思います。ただ、一方で「モノ・サービスを売る側」として考えなければならない機会が多いのも事実で、この辺りは難しいところです。