「ドットコム」「Web2.0」そして「クラウド」

フォントもクラウドの時代?!あなたのサイトでスタイリッシュなフォントを表示させる『TypeKit』 | 100SHIKI より.ここ1年くらい漠然と感じていることです.

ここ1,2年,世間では「クラウド」と言う言葉が人気のようです.IT 系のニュースサイトやはてブホットエントリ辺りでも毎日のように「クラウド」と言う単語を見かけるようになりました.しかし,「クラウド」と言う単語への各人の認識は非常に様々であるように思います.

クラウド」と言う言葉が指し示す領域は,とにかく幅広いです.私の当初の認識では,グリッド・コンピューティング+Web2.0と言われていたWeb上のサービス,くらいを指すものと思っていたのですが,どうやらそれだけにとどまらないようです.

ネットワーク・コンピューティング(ネットワーク・セントリック・コンピューティング)
ネットワークを中心に置いた考え方、または処理方式。クラウドコンピューティングはネットワークコンピューティングの1形態ともいえる。
ユーティリティ・コンピューティング
コンピュータのハードウェアやソフトウェアの利用を買取やリースではなく、電気・水道・ガスのように従量制で支払う考え方。クラウドコンピューティングはユーザーにはサービスの形で提供するため、ユーティリティ・コンピューティングの一形態ともいえる。
グリッド・コンピューティング
多数の小型のコンピュータをネットワーク経由で協調処理させる形態。主な視点は処理性能とスケーラビリティにあり、多数のコンピュータが世界中にある事を前提としている。クラウドコンピューティングからみれば、採用できる有力な技術の一部だが、極論として「雲の向こうには超高性能のコンピュータが世界で5台だけ」でも良い。
Webサービス
インターネット技術を使用したメッセージの送受信を行う技術、またはサービス。クラウドコンピューティングからみれば採用できる技術の一部といえる。
SOA
Webサービスの技術をベースにしたアプリケーション・サービスの疎結合の形態。クラウドコンピューティングからみれば採用できる技術の一部といえる。
SaaS
ソフトウェアをパッケージ販売ではなくサービスとして提供する。ソフトウェアベンダーからの視点といえる。クラウドコンピューティングでのソフトウェア提供方法といえる。
Web 2.0
複数のWeb技術を総称したもの。クラウドコンピューティングからみれば採用できる技術の一部といえる。
クラウドコンピューティング - Wikipedia

クラウド」にはこれだけの概念(もっとか?)が含まれているそうです.そのため,聞き手には「あれもクラウド,これもクラウド」と言っているようにも聞こえ,これが大きな混乱を引き起こします.また,これにともなって各人の(「クラウド」に対する)認識の差異も非常に大きなものとなり,この差異が話がかみ合わなくなる原因にもなります.

しかし、新技術を「クラウドコンピューティング」の名の下に同化させても、そのカテゴリー内の古いものが新しくなるわけではない。また、技術系の人と非技術系の人とのコミュニケーションを「曇らせ」てしまう。前者はたいてい、「クラウドコンピューティング」にはほとんど意味がなく、最近のネット上で起こっていることほぼすべてを描写し、あらゆる状況に対応できる言い回しであることを理解している。しかし、後者は、それがもっと具体的な何かであると仮定する傾向にあることに筆者は気付いたのだ。

http://japan.internet.com/busnews/20080822/6.html

クラウド」ではないですが,「Web2.0」がもてはやされていた頃に見つけた「Web2.0」の定義が,今も非常に印象深く頭に残っています.

そもそも、WEB2.0とは『あたらしい何か楽しいもの』に他ならない。

WEB2.0への道を壊すWEB1.0の人たちに対抗する方法*ホームページを作る人のネタ帳

最初にこの定義を見たときは(その適当さに)絶句したのですが,最近はこの定義は結構正しいのではないかなぁと感じています.「ドットコム」,「Web 2.0」,「クラウド」,いずれの言葉においても(ある程度)厳密に定義しようとする動きは見られましたが,それに反して多くの場合はだいたい上記のような意味で使われてきました.

クラウド」と言う単語が出現して以降,「Web2.0」と言う単語が使われている記事を見る機会はほとんどなくなりました.これまで「Web 2.0」と呼ばれていたもの(Web サービス)の多くは「クラウド」と言う言葉とともに紹介されています.恐らく,「Web2.0」はもはや上記の「あたらしい」には合致しなくなったのでしょう.しかし,先にも述べたように,「クラウド」と言う言葉には含まれるものが多すぎるため,何を主張しようとしているのか(Web サービス自身の素晴らしさを主張しているのか,分散コンピューティングや仮想化など,そのサービスを実装する際に使用した技術の素晴らしさを主張しているのか,etc)これまで以上に分かりにくくなっていると言うのが,率直な感想です.

何かを伝えるためには,宣伝は必要不可欠です.その際に,人々を煽るための魔法の言葉(バズワード)も時には必要になるだろうと思います.ただ少なくとも,その魔法の言葉が指し示す領域(使われる場面)はもう少し狭くなるような言葉が流行ると良いなと感じました.